21世紀の都市は高効率低環境負荷を目指す。
(有)阿竹空間設計研究所
阿竹 克人
○21世紀の世界について 都市はより高密度にならないといけない。
20世紀初頭の地球人口は約16億人、これが21世紀初頭には61億人に膨れ上がった。
世界中で毎日20万人都市が一つ生まれ、毎年日本一つ分の人口が増える。
このままの増加を続ければ世界人口は22世紀には240億人、低位推計でも120億人に膨れ上がる。
その膨れ上がった人口が現在の先進国並みの生活水準を目指して化石燃料を消費し続けると、
石油は21世紀前半で枯渇、天然ガスも22世紀にはもうない。
CO2濃度は上昇し続け、地球の平均気温は2度以上上昇、海面は1mも上昇し全国の砂浜や干潟が消滅する。
途上国の食料生産は現在でも逼迫しているが、今世紀末にはさらに倍以上の耕地が必要となる。
エネルギ−効率からも日本の食料生産を現在のように海外依存することは許されなくなる。
都市がスプロ−ルしてきた平野部の宅地をもう一度農地に戻さなければならない。
これらの問題を解決するために、都市はより高効率で低環境負荷を目指さなければならない。
そのためには都市はより高密度にならなければならない。
○自動車について そのために都市は自動車を捨てなければいけない。
都心のデパートより大駐車場完備の郊外店、マンションより郊外の駐車場付き一戸建てと
自動車は都市のスプロールと低密度化を進めてきた。
現代の都市は車道、駐車場など、面積の半分以上を自動車のために使っている。
仮に自動車を都市から締め出すことができれば、それだけで都市の密度は倍以上になる。
さらに高層化を進めて4倍にしたとする。
半径10kmの都市を半径5kmに高密度化することができれば、
前者の中で平均時速30キロの自動車でアクセスする時間と、
後者を平均時速15キロの自転車でアクセスする時間は同じになる。
自動車のための信号がなくなれば飛躍的にアクセス時間は短縮する。
毎年日本では自動車のために1万人近い人がなくなる。
このような交通システムが許されている理由は社会全体のシステムが未熟だからに他ならない。
近い将来自動車は化石燃料にたよれなくなる。
かりに燃料電池自動車が実現したとしてもそれは現在のように都市内を走るべきではない。
○交通システムについて
自動車交通に替わる新しいシステムは水平にも動くエレベ−タ。
大駐車場が必要となるのは、自動車が私有財だからである。
常に稼動している交通システムであれば大駐車場は不要である。
しかしながら自動車は私有財ばかりではない。
公共の自動車がなくなれば、消防や救急やごみ収集はどうするのか。
障害者や高齢者の社会参加ためにも自動車はかかせない。
インタ−ネット通販が普及するためにも、高度な物流システムは不可欠である。
それらを解決する交通システムは現在のエレベ−タ−の末裔であると考える。
20世紀末にはコンピュ−タでコントロ−ルされた自走式のエレベ−タが登場している。
超伝導リニアを使った水平に移動できるエレベ−タの実験も始まっている。
これらはいわゆる新交通システムに近いものだが、よりプライベ−トである。
タクシ−以上にドアトゥドアであり、呼べばすぐ来るオンデマンドなものになる。
このエレベ−タ−はコンテナのようにそのまま公共交通機関に乗ることもできる。
コンピュ−タにより高効率に群管理され、専用のものは無人でごみ収集や宅配もこなせる。
時速は自転車なみの15キロも出れば十分であり、安全である。
エレベ−タ−はさらに規格化されビルを越えて相互乗り入れされる公共財となる。
地下鉄の駅までエレベ−タ−が乗り入れられる集合住宅こそが都市住宅となる。
自動車によってスプロ−ルした20世紀の都市は、
水平にも動くエレベ−タ(ホリゾンタ−か)によって劇的に都心回帰する。
○都市インフラについて その新しい物流システムは都市インフラも変える。
道路とならんで、電気ガス上下水道を都市インフラと呼んできた。
ところが日本でも上水道から出る水を直接飲用に使わなくなりつつある。
どこのどんな古い管路を通ってきたか分からない水は飲めないという雰囲気が出てきている。
ペットポトルを大量に使うくらいなら、上水は新物流システムでタンクで送ればよい。
洗いものや庭の水遣りの中水は、雨水をそのまま使えば低環境負荷である。
電気も太陽電池など自家で作れば環境にやさしく、また送電ロスをなくせる。
不足分の送電は燃料電池の水素ガスなどを吸蔵して物流システムでおくればよい。
これは当然ガスとしても使え、燃えても全く二酸化炭素を出さない。
このような多少の備蓄をともなうシステムは災害にも強い。
最後に下水だが、水洗で流すために貴重なバイオマス資源が失われている。
新物流システムを使えば、生ごみといっしょに集めてメタンガスの供給源にできるほか、
なによりも貴重な有機農業の資源にできる。
これにより莫大な下水処理施設と生ごみの処理施設が不要になる。
生ごみ以外のごみの分別収集と再資源化にも新物流システムは威力を発揮する。
○都市緑化について 高密度森林都市・・・・都市はもう輝かない。
ツタなどの落葉植物は夏は日差しを適度に遮り冷房負荷を減らし、
冬のはれた日に降り注ぐ太陽エネルギ−を通し、暖房負荷を減らす。
21世紀の都市は二酸化炭素を吸収し、環境負荷を減らすために、緑で覆われる。
都市は壁面緑化と屋上緑化のほどこされた真の森林都市となる。
(森林都市という言葉は20世紀前半の名古屋の都市構想にすでに登場している)
生産された二酸化炭素の固定化物はバイオマスの材料として、また新製法により炭素繊維材として
高強度で軽い都市を構成する材料となる。(現在の炭素繊維は石油から作られている)
炭素繊維と有機ガラスで構成された高密度の都市は、中心まで木漏れ日で満たされる。
余分の太陽エネルギ−は太陽電池で電力として収集される。
「輝く都市」はル・コルビジェの提唱した自動車と共存する20世紀の都市の理想であった。
太陽エネルギ−を高度に有効利用している21世紀の都市は、もはや輝かない。
○サンプルプランについて
サンプルプランはある地下鉄の駅の上に建設する新しい都市のコンセプトである。
都市は6角形の柱状節理を模し、緑に覆われた外観は一見自然の丘陵と見分けがつかない。
外部階段は尾道のような坂の町を形成して尾根に至り、尾根筋の道は山上公園にたどり着く。
内部では各戸に地下鉄から直接エレベ−タ−網がつながっている。
(これはコンピュ−タ−コントロ−ルされ水平にも稼働する一種の新交通システムである。)
広大な内部空間は都市の賑わいの空間である。
業務床、物販店、アミュ−ズメント施設、生産設備などが入っている。
21世紀にはインタ−ネット上の情報空間の発達のおかげで
業務床や物販店などの非居住床の需要は減少する。
一辺5メ−トル6角形の住居ユニットは3層でのべ約200平米、
2世帯住宅や一部を在宅型勤務などのアトリエとして使える広さとなっている。
各戸には同じ6角形の70平米弱の庭(燐戸の屋上)が付属する。
これは1メ−トル弱の土壌に覆われ数メ−トルの高さの木を植えることができる。
戸あたりの居住者数を4人とするとhaあたり約400人の人口に加えて、
非居住床も十分に確保できる高密度な都市となる。
仮に名古屋市の全人口をこのシステムでカバ−すると、50平方キロ程度で済み
(一辺7キロの正方形もしくは半径4キロの円形のなかに収まる)
名古屋市の市域326平方キロの内275平方キロ、全体の5/6強を農地として開放できる。
今回は作業の都合上同一の6角形ユニットでまとめてみたが、直交座標系でも、
ボロノイ分割のようなランダムな形状でも、システム展開することが可能である。